WEB MAGAZINE — VOL.5 Adobe / AI / クリエイティブワークフロー / MAM

AIワークフロー統合の時代が始まった

The Age of AI Workflow Integration Has Begun

Adobe MAX 2025 / NAB 2026が示したプラットフォーム覇権の構図

2023年以降、生成AIは急速に進化した。文章・画像・動画・音声それぞれが驚異的な能力を持つ一方で、現場には決定的な課題が残っていた。ツール同士が繋がっていない。Adobe MAX 2025が示したのは、この分断を終わらせる構想だ。

企画
ChatGPT
制作
Firefly
編集
Photoshop/Premiere
出力
一つのワークフロー
Section 01

Fireflyは「生成AI」ではなく、クリエイティブAIの"ハブ"になる

今回の発表で最も重要なのは、Fireflyの性能向上ではない。AdobeはFireflyを、クリエイティブAIの統合プラットフォーム――AIモデルを束ね、ワークフローを統合する"ハブ"――へと進化させた。

これまでAdobeは「著作権的に安全なAI」を強調し、自社モデル中心の戦略を取ってきた。しかしMAX 2025では明確に方向転換した。外部AIモデルをFirefly内で利用可能にしたのだ。

従来の戦略

「どのAIモデルが勝つか」を争う自社モデル中心戦略

MAX 2025以降

「すべてのAIをどう使い分けるか」というプラットフォーム戦略

Key

Adobeは生成AIの"競争"から降りたのではない。競争の次元を変えた。AIプラットフォームの覇権を取りに来たのだ。

Section 02

本当の主役はChatGPT連携――企画から制作までが一つの流れになる

今回の発表で最も過小評価されているのが、ChatGPTとの深い統合だ。これまでは「企画:ChatGPT」「制作:Adobe」という分断があった。しかし今後は、ChatGPTで作ったアイデアを、そのままAdobe ExpressやPhotoshopへ渡せる。

これは単なる連携ではない。企画 → 制作 → 編集 → 出力という一連の流れが、AIによってひとつのワークフローとして統合される。Adobeは、生成AIの「点」をつなぎ、クリエイティブプロセス全体をAIネイティブ化する"線"を作った。

Section 03

AIは「生成」から「編集」へ――現場の本質に寄り添う進化

生成AIブームでは「新しいものを作る」ことが注目された。しかし実際の現場で最も時間がかかるのは、作ることではなく修正することだ。Adobeが今回強調したのは、まさに"編集可能なAI"という概念である。

Photoshopでは「人物以外を暗くして彩度を上げる」と指示するだけで、自動マスク・レイヤー分離・必要部分のみの調整をAIが行う。これは生成ではなく、編集の自動化だ。動画編集でも同様の変化が起きている。不要な人物の削除、映り込みの除去、不適切発言の自動伏せ処理、音声の分離、話し方のニュアンス修正――従来、複数の専門職が分担していた作業をAIが支援する。

Point

Premiereは「動画を編集するソフト」から、「動画を理解し、編集を提案するAIツール」へ変わりつつある。

Section 04

放送業界への影響――MAMは"保管庫"から"理解するデータベース"へ

Adobe MAX 2025は、クリエイター向けイベントに留まらない。放送局・制作会社にとっては、次の意味を持つ。AIがメディアアセットを理解し始めた。

映像・音声・テロップ・レイヤー・オブジェクト――これらをAIが"意味として"扱えるようになれば、検索・編集・管理のすべてが変わる。従来のMAMは「保管庫」だった。これからのMAMは、理解し、提案し、ワークフローを最適化する知的データベースへ進化する。

本誌VOL.3で論じたTrusted Media Intelligence Layerの概念とも接続する。AIが組織知識を学習する基盤として、メディアアセットの"意味的理解"は不可欠なピースだ。

Section 05

NAB 2026――構想が製品になった

Adobe MAX 2025から半年。NAB 2026でAdobeは構想を製品として実装した。

NAB 2026 — 01

Firefly Boards

ブラウザ上の無限キャンバス。ロケハンから企画・コンセプト開発をAIで完結させ、直接Premiereへハンドオフ。「企画と制作の分断」を解消する構想が製品として結実した。

NAB 2026 — 02

Premiere Pro Color Mode

DaVinci Resolveが長年独占してきたカラーグレーディング領域へAdobe本格参入。動画編集から色調整まで、ワークフローをAdobe内で完結させる戦略の一環。

NAB 2026 — 03

Frame.io Drive

クラウドストレージとローカル作業の境界を取り払う。チーム間のリアルタイムコラボレーションとアセット管理を一体化し、実質的なMAM機能を担い始めている。

NAB 2026 — 04

外部パートナーモデル拡張

Kling 3.0をはじめとする外部AIモデルがFireflyプラットフォームに統合。「最良のAIを選んで使う」というハブ戦略が具体化した。

Key

MAX 2025で「これから起きること」として示された構想が、NAB 2026で「今起きていること」になった。

「点だったAIが、線になった。」

Adobeが示したのは、AIが個別作業を支援する段階から、制作ワークフロー全体を理解し、統合し、最適化する段階への移行だ。これはクリエイティブ業界だけの話ではない。放送・映像制作・MAM・アーカイブ運用など、あらゆるメディア産業に波及する。

生成AIの時代は終わったのではない。点だったAIが、線になった。Adobe MAX 2025からNAB 2026へ。この半年は、クリエイティブ業界がAIネイティブへ移行し始めた転換点として記憶されるだろう。

用語解説 / Glossary

※1 Firefly — Adobeが開発したクリエイティブAIプラットフォーム。MAX 2025で外部AIモデルも統合可能なハブへ進化。NAB 2026ではFirefly Boardsとして企画から編集まで一貫した環境を実現。

※2 Firefly Boards — NAB 2026で発表されたブラウザベースの無限キャンバス。ロケハン・企画・コンセプト開発をAIで行い、直接Premiereへハンドオフできる。

※3 Frame.io Drive — NAB 2026で発表されたクラウドストレージ統合機能。チーム間のリアルタイムコラボレーションとアセット管理を一体化する。

※4 Color Mode(Premiere Pro) — NAB 2026で発表された本格カラーグレーディング機能。DaVinci Resolveが独占してきた領域へのAdobe参入を意味する。

※5 MAM(Media Asset Management) — 映像・音声などのメディアコンテンツを管理するシステム。放送局や制作会社で広く利用される。VOL.3・4でも言及。

※6 RAG(Retrieval-Augmented Generation) — 外部データベースから関連情報を検索しながら回答を生成するAI手法。VOL.1で詳述。

※7 MCP(Model Context Protocol) — AIとツール群を接続するプロトコル。「神経系」としてVOL.1で言及。

Liner Notes Consulting — Web Magazine Vol.5 — 2026
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